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Bounce

マキシム『Love More』 亡き盟友への想いも込めたハイブリッドな進化型ダンス・ミュージック

先鋭的でアグレッシヴなサウンドと、そこに込められた亡き盟友への思い――UKレイヴの先駆者が送り出すハイブリッドな進化型のダンス・ミュージックに身体も魂も圧倒されろ!

プロディジーの転機に瀕して

 昨年末、3年ぶりにリリースされたプロディジーのアルバム『No Tourists』は、ホラーとバーンズ・コートニーという新進気鋭の2組をゲストで招き、制作面ではプロディジー作品の常連であるジェイムズ・ラッシェント(ダズ・イット・オフェンド・ユー・ヤー)、ドラムンベース界からレネ・ラヴァイスなど数名のコラボレーターを招きつつも、基本的にはリアム・ハウレット、マキシム、キース・フリントの3名で制作されていた。ビートの輪郭が際立った『The Day Is My Enemy』(2015年)の荒々しいサウンドから打って変わり、レイヴの喧騒を呼び起こす煽情的なシンセやメロディーラインの強化、リアムの冴え渡るサンプリング・ワーク(ロリータ・ハロウェイ“Crash Goes Love”、ジリ・シェリンジャー“Mam Rad Lidi”、ウルトラマグネティックMC's“Critical Beatdown”他)など90年代風味のヴァイブも〈プロディジーらしさ〉全開で、本国UKのチャートでは定位置ともいえる7度目のNo.1を獲得すると共に、3人の結束の固さも再認識させる結果となったのは記憶に新しい。

 年が明けてからは〈グラストンベリー〉の出演や10年ぶりの北米ツアーなど、数々のライヴ予定も発表されてファンのヴォルテージも高まっていた矢先の3月4日、キース・フリントの訃報に世界が衝撃を受けることに……。奇抜な逆モヒカンの髪型と隈取メイクでメディアの注目を一身に集め、プロディジーの世界的なブレイクにヴィジュアル面からも多大な貢献を果たしたアイコンの消失により、残された2人はライヴのキャンセルを余儀なくされたのだった。

 各所からキースへの追悼コメントが届き、失った存在の大きさが浮き彫りになることで今後の活動も危惧された2人だが、8月にリアムがプロディジーの曲作りを始めたことをSNSで発表し、一方のマキシムは14年ぶりとなるソロ・アルバムのリリース情報を10月に解禁。それが今回登場する『Love More』というわけだ。

マキシム独自の音楽性

 10代の頃から自身のバンドでリリックを書き、その後はサウンドシステムに数多く携わることで、UKのレゲエ・シーンに深く関わってきたマキシムことキース・パルマー。DJ/プロデューサー/リミキサーとして、さらにMM名義ではアート作品も手掛け、2020年の展示に向けて大規模な作品を準備するなど、現在に至るまでさまざまなフィールドで自己を表現している。そんな彼の魅力が最大限に発揮されるのがMCであることは、もはや説明するまでもないだろう。彼の毒々しく鋭い声が放たれるや否や空間は張り詰め、楽曲をたちまち不穏な空気で覆いつくしてしまう。あなたがプロディジーの4作目『Always Outnumbered, Never Outgunned』(2004年)にもし物足りなさを感じたなら、意識せずともあの声の虜になっている証拠だろう。彼の魅力は声や言葉にとどまらず、パブリシティーに登場した際に醸し出すミステリアスな佇まいや、ステージ上でカンフーのアクションを決めながら観衆を煽り、会場をコントロールする時も同様で、プロディジーには必要不可欠なピースだ。

 そのように多方面で発揮されるマキシムの才能は自身の楽曲制作にもかねてから注がれ、96年にグリム・リーパー名義で発表したハードコア・ブレイクビーツのEPを皮切りに、98年にはXLの6曲入りプロモーション・サンプラー『Against The Grain』に、長年温めてきたダークなブレイクビーツ・トラック“Dog Day”をマキシム名義で提供。翌年にはローリング・ストーンズ“Factory Girl”のインスト・カヴァー“Sin City”を含むEP『My Web』で、トリップホップやダウンテンポも制作してみせた。

 2000年のファースト・フル・アルバム『Hell's Kitchen』では自身のバックグラウンドを余すところなく反映し、リアムやディヴァイン・スタイラー、スニーカー・ピンプス、スカンク・アナンシーのスキンらと共に、多様なエレメントを一枚の作品に凝縮させ、チャート・アクションでも成果を残している。その5年後のセカンド・アルバム『Fallen Angel』(2005年)は大衆の賛同という意味では厳しい結果に終わったものの、プロディジー本隊から距離を置いていた時期のマキシムが、自身のルーツのひとつであるヒップホップ色を強め、MCとしての立ち位置を再確認した意味では重要と言えよう。今回リリースされる『Love More』はそれ以来のサード・アルバムということになる。

 

もっと愛すること

 「自分の音楽を新しい方向に進めた。身近に起きる良いこと悪いことも含め、常にポジティヴで気持ちを明るくいこう。タイトルの『Love More』という言葉の通り、人々や自然など、周りにあるものの美しさに目を向け、感謝し、もっと愛すること。感謝し、愛するほどに、愛は近づいてくるからね。それがこのアルバムのテーマだ」。

 そう語るマキシムの言葉からも見て取れるように、新作は亡きキースに捧げられたアルバムである。制作は少数精鋭で行われ、プロデューサーにブレイズ・ビリオンズ、シンガーにはチャンパズとカリシャ・Jを重用。彼らのフックアップという側面もある一方、音楽面では過去のソロ作で表に出てこなかったレゲエを核に据えたことで、まとまりのある仕上がりとなっている。それはマキシムのヴォーカル・スタイルにも明白で、現行のベース・ミュージックやヒップホップのスタイルにも適応しながら、自身のルーツを見事なまでにビルドアップさせることに成功した。

 〈みんな幸せな気分でいなきゃならない〉と力強く歌うオープナーの“Feel Good”は、アルバム全体のコンセプトを端的に表現した楽曲で、レゲエとトラップを掛け合わせたヘヴィーなトラックにポジティヴなメッセージを乗せている。好戦的で重厚なダンスホール“Can't Hold We”では、〈奴らに俺たちを抑えつけることなどできない〉とアジテートしながら拳を突き上げ、一転“Rudeboy”ではカリシャ・Jが甘くメロディアスなサビを披露。低空飛行のサブベースがボトムを支え、スロウなグルーヴを紡ぎながらアフリカ系英国人のプライドを歌う“Mantra”、息苦しいほどに重たい低音がのしかかるベース・ミュージック風味の“On And On”、精神を鼓舞する勇ましいホーンに火を灯して応えたくなる“Like Me”、ダブステップとトラップの雰囲気が混じり合うパーカッシヴな“Push The Culture”、ドーネルの野太いソウルフルな歌唱パートと不快なノイズをバックにマキシムが鋭いMCを繰り出す構成がユニークな“Virus”など、徹底的にヘヴィーなサウンドを備えつつ、聴き手を、そして盟友を失った自分自身を奮い立たせるかのような強いメッセージが印象深い。この『Love More』がマキシムのキャリアにおいても重要な位置付けの作品となることは間違いないだろう。 *青木正之

新章へと進むプロディジーの軌跡

 グループの頭脳たるリアム・ハウレットと、グループの声を担うマキシムの2人組になったプロディジー。思い起こせば、90年に結成された当初の彼らは、リロイ・ソーンヒルとシャーキーという男女ダンサーを擁する5人組だった。XLとの契約に前後してシャーキーが脱退し、“Everybody In The Place”などのレイヴ・アンセムを含む初作『Experience』を発表したのが92年のこと。当時のオルタナ・ロックを意識した2作目『Music For The Jilted Generation』(94年)では早くも全英チャート1位をマークし、以降のアルバムはすべてNo.1を定位置とすることになる。“Firestarter”や“Smack My Bitch Up”を生んだ3作目『The Fat Of The Land』(97年)がキャリア最大のクロスオーヴァー・ヒットとなって全米1位も獲得するも、その後にリロイが脱退(その後はフライトクランクなどの名義で活動し、今夏にも新曲“Sin City Slam”を発表したばかり!)。完成まで歳月を要した4作目『Always Outnumbered, Never Outgunned』(2004年)はマキシムとキース不在のままリアムとゲストだけで制作されるなど、成功の大きさからグループ内に不協和音が生じた時期もあった。

 が、絆を再確認して生まれた2009年の5作目『Invaders Must Die』以降は、自分たちのレーベルを構えて流行に左右されないマイペースな活動を展開し、現時点での最新作『No Tourists』でもそのブレない姿勢は貫かれていた。悲劇を越え、〈頭脳〉と〈声〉がここからどんなプロディジー像を創出してくるのかにも期待しておこう。 *轟ひろみ


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